気になる小大君
小大君と言えば、三十六歌仙の一人。女蔵人左近などとも呼ばれています。
小大君は、生没年や素性はわかりません。円融天皇の后藤原媓子に仕え、そののち、東宮であった三条天皇の女蔵人だったようです。
雑用が多く、位は低いですが、歌の才はめでたく、また、現在でも小大君の筆と伝えられるものも残っており、才能溢れる女性であったようです。
私歌集には、東宮居貞親王(のちの三条天皇)の妃藤原娍子の異母兄弟である藤原為任や、娍子の従兄で、父済時の養子になった藤原実方との歌のやりとりが、多く見られます。
意図してか、自然にか、娍子や小一条流の者達と、居貞親王の仲を取り持つ役割を果たしていたように感じてしまいます。
この話はまたいずれ。
https://twitter.com/nakuramayumi_u/status/1290340860152803328?s=20
さて、小大君の歌と言えば、
大納言朝光、下らうに侍りける時、女のもとにしのびてまかりて、暁にかへらじといひければ
岩橋の夜の契も絶えぬべし 明くるわびしき葛城の神
(拾遺和歌集)
まだ若かりし藤原朝光は小大君と恋人関係にあったようです。一夜を共にした朝光は、帰りたくないと言いだしました。
当時の男性は、夜にひっそりと恋人のもとを訪れ、日が昇る前に帰るのが常識でした。
人によっては、関係を知られては困る恋もありました。特に女房などは、位の高い男性との関係を表沙汰にされたくはなかったようです。
葛城の神が作っていた岩橋が完成しなかったように、私たちの関係も途絶えてしまいますわね。
私は日が昇って醜悪な顔を見られたくない葛城の神ですから。
うーん、この歌、自分の容貌に自信がない人には詠めないような。
お世辞だとしても、男としては、「葛城の神なんてとんでもない。あなたはとても美人だよ」と言わなきゃいけないですからね。
これで男が関係を絶つことはないという確信もあったはず。
うまい。けれども、小大君集の詞書きの方を読むと
人の許にきける人の、三年ばかり更に見えざりけるを見むとて、あすは明けはててくるまはゐてこといひたりければ、あやしう久しき事と思へど、人をやりてそひてこといはせたりけるを、つととらへて内にもえ入らでみして、いとねたかりければ男、藤大納言 とか返しをとこ 秋立てば見 じとや思ふ 葛城の 神の夜にて やみぬべきかな
小大君は、実方と公任や道信の歌やそのやりとりをなぜか私家集に掲載しています。
気に入ったものを一つ。
殿上人桂より舟にて渡るに、星の影の見えければ
(衛門の督公任の君)水底にうつれる星の影見れば
(実方)天の戸渡る心地こそすれ
こんな歌もあったのですね。ロマンチックで書き留めて置きたくなる気持ちわかるような。
https://twitter.com/nakuramayumi_u/status/1293970952150081536?s=20